数ヶ月前、海の近くに住む友人が地元の木を使ってヘラやスプーンなどを作っている事を知り、次回訪れた際には是非とも一緒に製作させてもらいたいと願っていた。
先月にも一度訪れていたのだがその時は作業場を見せてもらったり、作った作品を見せてもらったりしただけで、来月戻ってくるからその時に一緒に製作をお願いしますと約束をしていたのだ。
そしてそのチャンスがいよいよ巡って来た先週。
波が無くなったタイミングで製作をお願いする事になった。
彼は作業場においてある木材の中でも厚みのあるケヤキの木を取り出して「これで作ろうと思う」と言った。
ささーっと鉛筆で四角のラインを引きそれに合わせて切ってくれたところに私は鉛筆でスプーンのアウトラインを描いていった。何度も線を引いてイメージを形にしていく作業はとても楽しい。
イメージしていたのは柄は細くて、浅めのスプーン。
アウトラインが決まると今度はそのラインに沿って切ってくれた。
それだけでも「おぉぉ〜!」と一人で歓声を上げてしまう。
そこで作業は翌日に持ち越し。
久しぶりに感じるものづくりのワクワクを感じながら眠りについた。
翌朝、横から見た時の角度やラインを決めるアウトライン作りからスタート。
これは使い心地に関わる大切な工程だ。
スプーンという物はなかなか贅沢なものである。
あの木の厚みがなければスプーンは作れないのだ。
ラインが決まったところで再び切り出してもらい、続けてサンディングの機械を使って削っていった。
少しずつ丸みを帯びスプーンらしくなって来たところでまた一人歓声。
どうかな?と見せると「いいねぇ〜!」と盛り上げてくれる。
機械を使ってさらに削っていき、ある程度形になったところで彫刻刀のようなものを使ってスプーンの凹みの部分を削っていく。
欅の硬さを感じながら少しずつ慎重に。
難しいけど面白い作業だった。
最後はひたすらサンドペーパーで削り磨いていく。
荒いペーパーから徐々に細かい目のペーパーへ。
ささくれだっていた木の感触が徐々にすべすべになっていく感触が気持ち良い。
最後は水も使いながら更に磨いていった。
口当たりをよくするために先の部分を特に念入りに。
柿渋とくるみのオイルを塗ると白っぽかった色が濃くなり艶が出て美しさが増していく。
それを薪ストーブの横に置き乾かした。
「これが乾いたら完成だよ」と言い残し、勝手口から出ていく彼の背中は14歳とは思えないほど逞しく見えた。
翌々日、お気に入りの南インド料理屋へスプーンを持ち込んだ。
カレーをイメージして作った初めて使うそのスプーンは私の手に既に良く馴染み口当たりも良く、美味しいカレーがより一層美味しく感じられた。
楽しいランチタイムが更にスペシャルなものとなった。
やっぱり手作りのものが好きだ。
歪んでいるところ、欠けているところ、完璧じゃない。
そんな個性があるからこそ可愛いし何よりもそのものを作る為に費やした時間、楽しさ、愛、そんなエネルギーを感じられるから。
硬くて丈夫な欅のスプーン。
これから大切に使い続けていこう。
そんな風に心から思えるものを友人の力を借りながら自分の手を使って生み出せたことが何よりも嬉しい。
使う度にこの旅のこと、ここで過ごした時間、優しい人たちの笑顔を思い出すだろう。
若き友人に心からの感謝を。