北側の海で出会った友人たちから強くおすすめしてもらったカフェがある。
大きな湖の近くにあるそのお店の店主もサーファーで、先日海で会ったばかり。
到着したのは夕方。
私の顔を見て、あれっ!と言って笑顔で歓迎してくれた。
その時お客さんは私だけで、カウンターに座りゆっくりとおしゃべりを楽しみながら丁寧に作られた美しく美味しいお料理をいただいた。
会話の中で、このお店の中にあるものは何でも買えるという事を知った。
カフェでもあり家具屋でもあるというユニークなお店なのだ。
各地からミュージシャンが多く集まるこのスペースにはそのミュージシャンや旅人たちが置いていったという面白い楽器や道具達も多く目に付いた。
そんな中でパッと目をひくものがあった。
ブルーのマラカスだ。
手に取り曲に合わせて振ってみた。
このマラカスはこの旅の相棒になる。
どこかで良いセッションが出来るかもしれない。
そんな予感がした。
「このマラカス買いたいです。おいくらですか?」
すると、このマラカスは友人が置いていったもので、値段は特につけていないから持っていっていいよと。笑顔で言ってくれた。
ありがたく頂戴して、新たな旅の相棒と共に旅を続ける事となった。
長距離運転中は音楽を聴きながら気分が乗るとマラカスを振り、セッション気分でノリノリのドライブ。
そんなマラカスとの出会いから数週間が経ったある日。
南の海の目の前で過ごした数日間の最後の夜のことだった。
海で知り合ったしんちゃんというミュージシャンや友人たちがビーチで焚き火をしている。
私も焚き火のまわりに腰を下ろした。
はじめはゆらゆらと燃える火を見つめながら何を話すでもなく波の音を体で感じながら満ち始めた月を眺めていた。
しばらくするとその中の一人がギターを弾き始めた。
私は階段を上がり車へマラカスを取りに走った。
ビーチに戻り、チャカチャカとマラカスを振りセッションに加わる。
しんちゃんも立ち上がりギターを弾いている。
火の暖かさと音を体で感じながらの心地よい時間だった。
マラカス自身もきっと楽しかったと思う。
それ以降もマラカスは一人でのドライブを盛り上げてくれていた。
帰路の途中、大きな湖の近くにあるあのカフェに再び立ち寄る事にした。
丁寧に作られた美味しいランチをいただきながら、あのブルーのマラカスが旅の相棒として活躍してくれた事を伝えた。
すると「あぁ、しんちゃんが置いていったマラカスな!」と。
「えー!しんちゃんってひょっとしてミュージシャンのあのしんちゃん!?私しんちゃんと焚き火を囲んでこのマラカスでセッションしたんですよ!」
二人して驚き大笑いだった。
家に帰る前にどうしても会いたい夫婦がいて伊豆へ向かった。
ティピというインディアンのテントの中で焚き火を囲み、奥さんが作った美味しいお料理を頂きながら旅の話や印象的なエピソードを話している中でそのマラカスの話をした。
すると、「物は人を使って移動する事があるって聞いた事があるよ。
そのマラカスは麻ちゃんを使ってしんちゃんに会いに行ったのかもしれないね。」
そういう事かもしれない。
マラカスが私としんちゃんを出会わせてくれたのかもしれないと思うと、もし誰かがこのマラカスが欲しいと言った時にはこの旅するマラカスを気持ちよく送り出そうと思う。
こんなエピソードを添えて。